壽海千鶴さん

大阪府→那智勝浦町

群馬県出身。国内外を問わず旅が大好きで、一時はタイ南部トラン県に暮らしながら食堂を経営。帰国後、長野や大阪で暮らしたのち、ご主人とともに那智勝浦町色川地域へ移住。「農家民泊JUGEMU」を開く。

すべて手仕事の自給自足「ストレスゼロ」の里山暮らし

和歌山市内から車で3時間以上。最寄りの市街地の紀伊勝浦駅周辺からでも、山道を小1時間走り、ようやくたどり着く色川集落。陸の孤島と呼ぶべきこの里山に、大阪市内から移住し、2014年春、「農家民泊JUGEMU」を開いたのが壽海千鶴さんと夫の真也さん。

千鶴さんは、かつてタイに8年間暮らし、現地で食堂を営んでいた経験も。帰国後に出会った真也さんと大阪で3年間暮らしたが、自給自足の生活を求めるように。色川は、有機農業を志す若者が多数移住する全国有数の山間地域。友人のすすめで訪れ、「気軽に来れないド田舎さ」と、美しい里山風景に惚れた。

人口の約45%が新規定住者で、受け入れ態勢も万全だ。

「すぐに家が見つかり、Iターンの方たちと話す機会も設けてもらって。ここなら無理なくなじめそうだなって」

「農家民泊JUGEMU」を開くことになったのは、夫婦ともにホテルスタッフの経験があり、「2人で住むには広すぎる古民家だった」から。和歌山県が「農家民泊」という体験型民宿を提案していることもあり、宿泊だけでなく、薪割りやかまどでの炊飯、作物の収穫など、農家暮らしを体験できる宿にした。

「昔から旅好きで、外国に行っては安宿に泊まっていた」という千鶴さんらしく、離れの2階につくった客室は、アジアのゲストハウスを思わせるゆるやかな雰囲気がただよう。

母屋のそばにある畑と水田は、半世紀以上放棄されていた農地を2人で開墾。いまでは、壽海さん夫妻とお客さんが食べられるほどの、野菜と米を無農薬・有機栽培している。山深い色川は段々畑がほとんどで、農機が入れない畑や水田は、すべて手仕事。裏庭には卵を産み落としてくれる鶏もいて、野良仕事は果てしない。

「茶畑もあって、春はお茶摘みに製茶。色川には梅や柚子で加工品をつくる工房があって、季節ごとにアルバイトの声がかかる。やることがほんとうにたくさん。スローライフじゃない(笑)」

とはいえ、「ストレスゼロ」の快適生活。そのいちばんの理由は、「地元の方の人柄のよさ」なのだとか。

「移住後、お近づきのしるしに、隣のおばあちゃんを家に招待したんです。一緒にご飯を食べようと。『先に座っていてください』と居間へ案内したんですが、ずっと部屋の隅っこに正座していて。家の主人が座るまでは待つ、そんなしきたりが色川には残っているようで、あまりの奥ゆかしさに感動しました」

見習うことばかりというお隣のおばあさんからは、その後、わらじの編み方やぬか漬けのつくり方も教わったという。

「2年ちょっとしか住んでいないのに、もう随分ここにいるみたい。濃厚な時間を過ごしています。できれば、ずっと色川で暮らしたい」

千鶴さんはとっても幸せそうに笑顔を浮かべていた。

離れの2階にある客室。窓の外には、段々畑が織りなす里山風景が広がり、穏やかな時間が流れる。宿泊は一日5名までの1グループ限定。

6羽いる鶏のごはんは、畑で育てた新鮮な人参! なるほど、おいしい卵を産んでくれる。
薪をくべ、羽釜で炊くごはんは香りが絶品。宿泊時は、都会では味わえない薪割りや、かまど仕事、季節によっては、山茶摘みや柚子の収穫なども体験できる。 リクエスト次第で、夕食は千鶴さんお手製のタイ料理が味わえる。

和歌山のココがおすすめ!

■和歌山人の気づかい
色川だけでなく、和歌山県内から来られるお客さんは、手みやげを持参されることも。気づかいに心打たれる。
■紀南の温暖な気候
米の収穫時期が本州でもっとも早い那智勝浦。山深い色川でも、冬は雪が散らつく程度で比較的あたたかい。
■新鮮な海の幸が豊富
生マグロの水揚げ高日本一の那智勝浦は、新鮮な海の幸が豊富。全国に出まわらない地魚が多く、しかも安い!

『TURNS Vol.15-2016 冬-』文:村田恵里佳 写真:照井壮平