篠畑 雄介(しのはた ゆうすけ)さん

大阪府→有田川町

和歌山県有田川町出身。大阪で経営の専門学校に通い、ソフトウェア会社や野菜の卸売業に携わったのち独立。和歌山の特産物を取り扱う会社を興した。現在は山椒農家として「かんじゃ山椒園」で働く傍ら、休日は趣味の家庭菜園やDIY、燻製、焼き鳥など作って楽しむ日々を過ごす。

自分にも何かできることがあるんじゃないか

和歌山県の有田川町出身で、地元の山椒農家に就職。そう聞くとシンプルだが、高校を卒業して大阪に出た篠畑さんが和歌山に戻るまでには様々な経緯がある。大阪では経営の専門学校に入り、ソフトウェア関連会社に営業マンとして就職。その後、数度の転職や起業を挟み、有田川町にある山椒農家への就職を決めた。

なぜ山椒農家なのか。それは会社を経営していたときに、現在働いている山椒農家の商品を取り扱っていたことに由来する。そのときの縁から何度か農園に通う間に、山椒をとりまく現状について話を聞いたことがきっかけとなった。

「山椒の生産者の平均年齢が特に高いという現状を教えてもらって。いま輸出もどんどん増えていて世界中から注目されているのに、このままだと、せっかくの特産品が失われてしまう。後継者もいない。そんな話を聞いていたんで、それだったら自分でも何かできることがあるんじゃないかなと思って、和歌山で山椒農家になろうと決めて戻ってきたんです」。

かんじゃ山椒園が運営するカフェ。ぶどう山椒の粉山椒は鮮やかな緑色で、シトラスのように爽やかな柑橘系の香りがする。

カフェ店内で山椒等の各種商品販売もおこなっている。

山椒農家として働く

様々な料理の味を引き立て、海外でも注目が高まっている香辛料「山椒」。和歌山県は生産量日本一を誇り、篠畑さんが暮らす有田川町はその中心的な生産地の一つだ。房が大きくフルーティーな香りが特徴の「ぶどう山椒」は有田川町の発祥。みかんと並ぶ主要な特産品である。

山椒農家としての篠畑さんの仕事は、山椒の栽培から出荷、顧客対応、加工場との連絡、ネット販売、出張販売など多岐に渡る。時期によって忙しさにばらつきはあるが、おおむね午前8時から午後5時までに仕事を終え、土日は休日となる。チェーンソーを用いた作業や草刈りなど、体力を使うことも多くハードな仕事ではあるが、作業をしているときも、やり遂げた後も楽しんで働いているという。

「一年間大変な思いをして育ててきたものが、実って収穫した時ももちろん嬉しいです。でもそれ以上に、山椒を詰めて送ったら『こんないい山椒はじめて見たよ』とか、『こんなにきれいな山椒をありがとう』とか、お客さんからのそんな声を聞くと感無量です。一年間しんどい思いをして頑張ってきて良かったなと思いますね」。

やりたいことが、やりたいときに、やりたいだけできる

山椒農家を続ける理由は、今まさにそれが「やりたいこと」だからだと篠畑さんは言う。一方で、自分が生活を楽しむことを通して、田舎暮らしや山椒づくりをしようとする人のモデルケースになりたいという思いもあるようだ。

「山椒一本で暮らしていけると思う人って、ほとんどいないと思うので。背中を押せるモデルケースになりたいなと思います」。

現在の住まいは、日用品などの買い物ができるお店から車で30分ほどの場所にある。人によっては不便と感じるかもしれないが、篠畑さんにとっては当たり前の生活で特に不便さは感じていない。それよりも、自分のやりたいことを存分にできる環境に満足している。家庭菜園やDIY、燻製や自家製の焼き鳥づくり、大音量での映画や音楽鑑賞など、近隣を気にせずに楽しめるのは田舎暮らしならでは。

「なんせ楽しいですね。やりたいことが、やりたいときに、やりたいだけできる。それに尽きますね」。

目標は、食料自給率500%

田舎で就職、かつ篠畑さんのように農園・農家で働くにはどのような方法があるのだろうか。篠畑さんによれば、WEBサイトや求人広告などがない場合でも、人手に困っている農家はたくさんある。気になる生産者がいるなら、電話を一本かけてみるところから始めるのも一つの方法だという。

「それはもう大事に育ててきた山椒ですから、『誰やお前』って言われることもあると思いますけど、実際に担い手は足りてないので困っている人はたくさんいると思います。声をかけてみるのもいいんじゃないかなと思いますけどね。

山椒に限らず、どんなものでもそうだと思います。やりたいことを、やらずに後悔するのはもったいない。その時間は絶対取り戻せない」。

そんな篠畑さんの現在の目標の一つは「食料自給率500%」。自分が食べる分の5倍の食べ物を自給することだ。

「楽しそうだからやるってだけですね。食料自給率がものすごく低い日本で、俺は食料自給率500%だよ、ってなんかいいですよね。笑」

やりたいことをして、満足に生きること。篠畑さんの言葉には、「自分らしい田舎暮らしのあり方」について考えるきっかけになる、いくつものメッセージが詰まっているようである。

 

かんじゃ山椒園