篠畑 雄介(しのはた ゆうすけ)さん

有田川町→大阪府→有田川町

―今回は、有田川町(ありだがわちょう)に移住した篠畑雄介(しのはた ゆうすけ)さんにお話しを伺いました。篠畑さんは大阪府生まれ。幼少期から有田川町で過ごし、専門学校への進学を機に大阪府へ。社会人を経て、有田川町へUターン移住。社会人経験の中で、地元の有田川町の主要産品である「ぶどう山椒」に出会い、2019年に町内への移住を決められたそう。現在は「篠畑農園」の代表として「ぶどう山椒」の生産に取り組んでいらっしゃいます―

有田川町の魅力

和歌山県有田郡(ありだぐん)有田川町(ありだがわちょう)は、県内の中部、いわゆる紀中(きちゅう)地域に位置する。
「有田川町は、自然豊か、静か、都会のようにごみごみしていない。」「地域の人も優しく、人間関係の距離感も“ちょうどよい”です」

もちろん、地域の住民の方々とは日頃からコミュニケーションを図った上で、「自分がやりたいことに対して、他の人に迷惑が掛かることが少ないと思います。何でも気兼ねなくできる環境がここにはあります」と、アウトドアやDIYが好きな篠畑さんは、地鶏をさばいて炭火での焼き鳥や燻製作りなども自宅で楽しんでいるそう。

自宅で楽しむ炭火での焼き鳥は格別。(写真はご本人提供)

Uターン移住し、山椒農家に

篠畑さんは、学生時代を大阪府で過ごし、システム会社に就職。その後、転職し、大阪の中央卸売市場の青果担当を経て、和歌山県の特産品を取り扱う会社を起業する。

「事業で地元・有田川町の“ぶどう山椒”を取り扱う中、ぶどう山椒が置かれている状況を知りました。特に、海外需要も見込まれる中で、生産者の高齢化や担い手不足など、産業の存続性への危機感から和歌山で山椒農家になることを決心しました」

2019年、篠畑さんは有田川町にUターン移住。移住後、同じ町内の山椒農園に就職する。
「勤め先の山椒園では、山椒の栽培だけでなく、出荷や顧客の対応、加工場との連絡、ネット販売等さまざまな業務に従事しました」
3年間の業務を経て、2022年に「篠畑農園」として独立する。

お話を伺った建物は、将来、加工場として改装予定。

山椒農家としての想いとこだわり

山椒農家として独立後、現在の取り組みにおける想いやこだわりについて伺った。
「まず、ぶどう山椒農家の高齢化が進む中、これまでの“作り方”を改善、特に効率化を重要視しています。良いものをつくるには手間暇をかけるのは当たり前ですが、例えば草刈りなど手間をかける必要用の無いところは機械化するなどし、手を入れなければならないところにはもっと手を入れるようにしています」さらに、ご自身の経験を踏まえ、これからの若手就農者の手本となるよう取り組んでいる。「ゼロからでもぶどう山椒農家になることができる、農家としてやっていけるという、地域のモデルケースになりたい」との目標に向けて取り組むことが、日頃のモチベーションになっていると語る。また、ぶどう山椒農家として取り組むこだわりは「有機農法」。獣害や虫の被害も多く、手間もかかるものの、有機農法で栽培されたぶどう山椒に対する世の中のニーズもあると考えているとのこと。何より、自分がぶどう山椒農家のモデルケースを目指す中で「環境負荷の低い農薬を使うので、自分自身が健康で長く農家でいることができると考えています。この先、50年以上は山椒を作っていかないと!」と力強く話してくれた。

草刈りも機械化。年季の入った相棒。

善は急げ/情報収集で計画的に

移住を検討されている方にアドバイスをお願いしたところ、ご自身の経験を振り返り「今さら言っても仕方ないですが、“善は急げ”で、早く動いて移住して、木を早く植えておけば良かったです(笑い)」とのこと。また「軽い気持ちで動く行動力もとても大事。でも移住してきて失敗する人は『こんなはずじゃなかった』と思って帰っていくと思うので、そうならないよう現地に訪問したり、インターネットや役場、支援機関などから情報収集し計画を立てておくことで、理想と現実のミスマッチは少なくなると思う」と話された。さらに、最近、町内に移住就業支援拠点施設「しろにし」が開設。旧小学校跡地を活用した施設で、「今から移住を検討する人にとっては最高の場所。自分が移住したときにはなかったので、うらやましいです」と、篠畑さんも評価。「短期~中長期の滞在も可能な施設となっていて、地域の方々との交流も可能です」とのことで、家電も備わっているため、身一つで利用することができるそう。

また、農業を目指す方に向けては「会社勤めに疲れ、農業を目指される方が一定数いると思いますが、そんな気持ちで成功するほど農業は甘くないです。会社の上司より天気や獣の方が理不尽ですよ」と笑いながら話してくれた。
実際、移住で見落とされがちな部分が、お金のところ。収入と支出についてはよく考えておくべき、とのこと。篠畑さんは移住直後のお金のない中、「税金の支払いや住居の修繕費などで収支のバランスを保つことが非常に大変だった」と教えてくれた。

地域の鳥獣害対策にも取り組み。

「地域のために」は「自分のために」なる

今後の展望についてお聞きしたところ「大きな目標としては、新規就農のモデルケースとなり、若い生産者を増やしていきたい。ぶどう山椒でお金を稼ぐことができるんだ、という姿を見せていきたい」と話される。現在、600本の有機栽培の山椒の木を、将来は1,000本以上にして本数・収穫量ともに日本一の山椒農家になることが夢だという。
篠畑さんは「自分には何ができるか」を考え、Uターン移住、山椒農家への新規就農を実践していく中で、SNS等での情報発信が重要と話す。自身の活動を対外的に発信していくことで、協力者も現れ、最近では大手スパイスメーカーとの協力体制に結び付くなど、新しい動きにつながっている。
ご自身のインスタグラム(@sansho.shinohata)の紹介文にある「貯金0、自己資金0、コネ無し、所有地無しで、0から農園を立ち上げ」から始まった取り組みから、「稼ぐことができる農家を示すことで、地域に新たな農家が誕生していくサイクルを実現したい。それで地域全体が盛り上がっていけば良い」と語ります。「地域を盛り上げていかないと自分もダメになるし、和歌山県として山椒の生産量を上げていかなければならないと考えています。地域のために行動すると、結局自分のためになると思います」

耕作放棄地を借り受けながら、育てる山椒の木も600本に。

―篠畑さんは、有田川町のぶどう山椒を守るため、自らが新規就農者のお手本となるべく、農業に取り組まれています。山椒畑を案内していただく中で「農業はシビアですが、チャンスもあると思います」「農業は飽きません!すぐに結果が出ないところも面白い」と、簡単ではないものの、ご自身のこだわりである効率化や有機農法に取り組む姿勢は印象的でした―

取材日:2023年6月20日

<ご紹介>

○篠畑農園 公式Instagram
https://www.instagram.com/sansho.shinohata/

○有田川町移住就業支援拠点施設「しろにし」
https://shironishi.jp/