
―2024年、京都府から海南市へ、夫と5人の子どもたちと共に移住した井手愛さん。現在は、看護師として働きながら、広い庭での家庭菜園や地域のお祭りなどの伝統行事を家族全員で楽しんでいる。そんな井手さん一家の、和歌山での「移住ライフ」についてお話を伺った―
子どもたちが自由に、のびのびと遊べる環境を求めて
海南市は和歌山県北部に位置し、穏やかな気候と美しい海岸線、豊かな山々に恵まれた町である。アウトドアを日常的に楽しめる環境に加え、子育て支援も充実しているなど、子育て世代にとっても暮らしやすい魅力にあふれている。
井手さん一家が以前住んでいた地域では、家族7人で暮らすには住まいが手狭に感じられるようになっていた。加えて、地域にお祭りがなく、道が狭く車通りも多いため、子どもたちが自由に外を走り回れる場所が限られていたことも、移住を考える大きな要因だったという。
井手さん一家はもともと大の海好きで、以前から和歌山の海や水族館を頻繁に訪れていた。和歌山県南部の白良浜やすさみ町の海の美しさに魅了され、「いつか海の近くに住みたい」という思いを家族で共有していた。長男・海(うみ)さんの中学校入学、そして次男・叶夢(かなむ)さんの小学校入学という節目が近づいたこともあり、2022年に「わかやま移住定住支援センター」に相談を開始し、本格的に和歌山への移住に向けて動き出した。
1年かけて見つけた、理想の「一目ぼれ物件」
住まい探しには約1年を費やした。井手さんはインターネットで毎日情報をチェックし、妥協のない条件を掲げた。その条件とは、「海が近い」ということ、そして「広い庭があること」「小中学校が自転車圏内にあり、特に小学校が近いこと」「スーパーが近いこと」などだった。
具体的には、和歌山県移住ポータルサイト「わかやまLIFE」の「わかやま住まいポータルサイト」を見て物件をチェック。その後、わかやま移住定住支援センターの「オーダーメイド現地案内」で、チェックした物件の内見を行うなど、県の支援制度も活用した。
特に、「オーダーメイド現地案内」では、海南市役所の移住担当者(ワンストップパーソン)とともに、町なかを案内してもらった。その中で、市内の図書館「海南nobinos(ノビノス)」も見学。日本有数の絵本の蔵書に加え、小さな子どもが遊びながら過ごせる空間や、飲食ができるスペース、中学生が集中して学習できる環境など、年齢に応じて利用できる点に大きな魅力を感じたという。
また、こども園や保育園の紹介を受けたり、候補となる物件ごとに通学予定の小・中学校について教えてもらったりと、丁寧な対応がありがたかったという。こうした経験は地域を知る上でとても貴重な経験となり、移住に向けた確実な一歩になっている。
最終的に出会った住まいは、7LDKというゆとりのある間取りに、念願の広い庭、そして小学校と中学校が目の前という、まさに理想を形にしたような物件だった。この家に「一目惚れ」した井手さんは、即座に購入を決意した。
入居前には、1階フロアやトイレ、お風呂のリフォームを行った。特にお風呂は、子どもたちと一緒に入りやすいよう増築して拡張し、外壁や瓦の塗装も施して、自分たちらしい住まいに整えた。このリフォームにあたっては、海南市の「空き家リフォーム工事補助金」や国のエコ関連補助金を活用した。
入居後、思いがけない知らせがあった。この物件の前の所有者さんより、郵送でファイルが届いた。中身は、前の所有者さんが居住していた頃に訪れた、飲食店のパンフレットや名刺だった。一つずつ丁寧にファイリングされ、『おいしいです!おすすめです』『県外からも来られています』など、手書きのメモも添えられていた。中には、『道がせまい!』と、大きな車を使用する井手さん一家を気遣うコメントもあった。井手さんは、その気持ちに感謝しながら、これらを参考に飲食店巡りも楽しんでいるそうだ。いまもなお、前の所有者さんとの交流は続いている。
看護師としての新たな一歩と、収穫の喜び
仕事については、海南市内にある、和歌山県看護協会のナースセンターなどを通じて、無料の職業紹介や、ナースバンクを通じて精力的に転職活動を行った。10件ほどの病院を実際に見学し、職場環境や待遇をじっくりと比較検討した。その結果、以前の職場よりも条件が良い現在の病院(和歌山市内)に就職することができた。夫も海南市に隣接する紀美野町の施設に勤務しており、夫婦ともに働きやすい環境に満足している。
日々の暮らしでの最大の楽しみは、念願だった広い庭での家庭菜園だ。大根、白菜、ほうれん草、ジャガイモ、さらには夏にはキュウリなど、多種多様な野菜を種から育てている。収穫したての野菜が食卓に並ぶ、自給自足に近い贅沢な食生活を家族全員で楽しんでいる。また、大の釣り好きな井手さん夫婦は、近所の海に釣りに行く機会が増えた。秋にはアオリイカや太刀魚、冬にはアジなどが釣れる。また、自分たちで釣った魚にだけでなく、近所の方からいただいた魚なども食卓を豊かに彩っている。
家族全員で飛び込んだ、温かなコミュニティとお祭り
移住間もない頃、近所の方から公民館への誘いがあり、理由も分からないまま家族で足を運ぶと、そこには住民の方々が集まっていた。初対面の方も多く、少し恥ずかしい気持ちもあったが、家族全員で自己紹介を行うと、非常に温かく迎え入れられ、驚くと同時にうれしさを感じたという。
そんな出来事が、地域に溶け込む大きな自信となった井手さんは、地域活動への参加も積極的に行っている。現在は、夫が自治会の役員を務めるほか、井手さんも公民館のお祭りの手伝いなど、地域の活動には欠かさず顔を出すようにしている。
特にお祭りは家族全員の楽しみとなっており、子どもたちは地元の踊り「ソーラン節」を発表会や介護施設での披露している。今後は、太鼓や笛にも挑戦していく予定だ。移住前はお祭りを見る側だったが、海南市では自ら「参加する」喜びを実感している。
不便さが気にならない「後悔のない選択」
実際に暮らしてみると、公共交通機関が少なく、大人は1人1台の車が必須であることや、道が狭い場所が多いこと、学校のグラウンドの砂埃で洗濯物を外に干しにくいことなど、住んでみて初めて気づいた課題もあった。
しかし、それ以上に、高校生までの医療費が無料となる「子ども医療費助成制度」などの市の支援制度の手厚さや、何より「近所のおばちゃんが野菜を持ってきてくれる」ような、人と人との距離の近さと温かさを日々実感している。もともと釣り好きだった井手さん夫婦は、休日になると釣り場に出かけるため、地元の釣り友だちもたくさんできたそう。そんな井手さんは「移住してきて本当に良かった」と心から感じており、今後は看護師を続けながら、自宅の一部を使ってネイリストとしての活動を始めたり、喫茶店を開いたりといった、新しい夢も膨らませている。
これから移住を考える方へ
最後に、井手さんは、自身の経験から「移住ノート」を作成し、やるべきことや手続きを細かく管理することを勧めている。「転校に引っ越しと、やることが多くて大変でした。いろいろとチェックしながら進めましたが、これだけでは足りなかったと思います。移住を段取りよく進めるためには、移住ノートに細かく記録するのがいいと思います」と井手さん。特に子育て世代は学校や保育園関連の手続きが多いため、事前の念入りな準備と、移住センターなどの窓口をフル活用することが、後悔のない移住への近道になると語ってくれた。
住まいポータルサイト
https://www.wakayamagurashi.jp/house/search/
オーダーメイド現地案内
https://www.wakayamagurashi.jp/meet/guide/








