佐藤ゆきさん・浅田宏さん

奈良県・兵庫県→橋本市

佐藤ゆきさんと浅田宏さんの夫婦によるユニット「なりゆき屋工房」。2011年に南海電鉄・学文路駅から徒歩圏内に450坪の農地を購入。自給的な農業をしながら、クラフト制作に取り組んでいます。また、土地の一角に建てられた家では住み開きを行い、仲間たちが集う居場所にもなっています。

抱き続けていた暮らしへの想いは、結婚を機に動き出す


佐藤さんはSEとして働いた後、陶芸作家として奈良県生駒市に工房を構え制作活動を開始。一方、浅田さんは兵庫県西宮市で会社勤めをしながら、木工作家として活動。クラフトイベント「高野山クラフトキャンプ」の運営に携わり、月に1度、橋本市へ通う生活を長らく続けていました。そして、ふたりは高野山クラフトキャンプを通して知り合い、結婚を機に橋本市へ移り住みました。

佐藤さん「窯さえ運べばどこでだって陶芸は出来るから。いなか育ちなので、それまで住んでいた新興住宅地よりも地に足がついて楽しそうだなって」
浅田さん「クラフト制作と農業をしながら自然のある場所で暮らしたい。その思いがずっとあって、結婚がちょうどいいきっかけだなと」

浅田さんが現在の暮らしを描くようになったきっかけは、阪神・淡路大震災でした。水が使えない、ガスが使えない、食べ物がない。西宮で被災した経験に、都市の弱さを痛感したといいます。自ら土を耕す暮らしであれば、不安要素は減るのではないか。長く橋本へ通う中で、農業を営む友人と出会っていたことも、大きかったと振り返ります。

「どんな家で暮らしたい?」描いた夢が、かたちになっていく

移住先に橋本市を選んだ理由は、もう一つあります。作品の展示販売にあたり、ギャラリーやクラフトフェアへ出掛けることも多いふたり。自然に囲まれ、農業を出来る土地がありつつも、大阪まで電車で約1時間とアクセスが便利だったことも大きな決め手となりました。橋本へ移住した2009年からは、借家に暮らしながら「ここだ」と思える拠点を探し続けました。

佐藤さん「当時は、行政の移住支援制度が今ほど充実していなかったと思います。でも、仲間がいることの安心感は大きくて。家探しも仲間に紹介してもらったり、自然農をしている作家友達の旦那さんが『一緒にやろう』って畑を貸してくれたり。こっちに来てからは更に繋がりもどんどん広がって、面白い人がいっぱい! 『和歌山の人って、受け入れてくれる柔らかさが凄くあるな』って感じました」

3年が経った頃、ようやく現在の住まいへたどり着きました。紹介を受けたのは、放置されてジャングルと化した450坪の柿畑。そのうちの70坪を宅地へと転用。住居を建て、ふたりの本拠地 が出来ました。

となり町に住む知り合いが設計した平屋の開放的な家は「ふたりのやりたいことが出来るように」と考えられているそう。広い居間の空間を生かし、“住み開き”と称して上映会、ライブ、ワークショップを開催しています 。

佐藤さん「付き合っていた当時、『どんな家に暮らしたい?』ってよく話していたんです。自分たちの制作したものを並べてギャラリーを開いたり、イベントをして人が集まれる場所になればいいよねって。あの頃ふたりで描いていた夢は、実際に形となっています」

自然とともに育まれてゆく、ふたりの暮らし


柿、梅、アーモンドにオリーブ、すもも、ザクロ、いちじく、文旦、ヘーゼルナッツ。家の周りには、ふたりが植えた沢山の果樹と小さな畑があります。この場所でふたりは鳥の鳴き声や、植物の変化に日々季節を感じ暮らしています。

佐藤さん「冬は葉を落とす庭も、3月の終わり頃になると、木々が芽吹きはじめます。春になると野草やハーブがぐんぐん育ち、夏場は敷地の向こうが見えないぐらい一面が緑色に。朝、目を覚ますと『森になってる!』って感じる瞬間があります」

季節の移ろいの中で、 時にものづくりに向き合い、時に人が集まり、時に猫とごろごろする。種を蒔き、草刈りに追われ、果実や野菜を収穫し、 パンを焼く。そうしてふたりの暮らしは積み重なり、リズムが生まれていきます。

佐藤さん「50歳になって、もっとしっかり陶芸をやりたいと思うようになりました。この先動けるタイムリミットを考えると、つくりたいものをちゃんとつくらなくっちゃって」
浅田さん「僕も60歳から出来ることって段々と限られてくるやろうし。けど、こっちの人はみんな元気やからね。目指さないと!和歌山を選んだのはたまたまやったけど、生活の基盤がこの場所でよかったよね」
佐藤さん「年齢を重ねても凄い人が身近にいっぱいいるよね。わたしも最後まで自分を表現して、つくる人でいたいな」

なりゆき屋工房
・所在地:和歌山県橋本市学文路249-2
・TEL:0736-32-0833
・Facebook:https://www.facebook.com/nariyukiya/
・Mail:nariyukiyakobo@gmail.com
・HP:https://nariyukiya.web.fc2.com
・instagram:https://instagram.com/satoyuki.sprout/