千葉智史さん・貴子さん

東京都→那智勝浦町

千葉智史さんは2015年7月、地域おこし協力隊として東京都から那智勝浦町色川地区に移住しました。パートナーの貴子さんも翌年移住して結婚。お二人はフリーランスで編集・ライター業をしながら、智史さんの協力隊卒業後に始めた「らくだ舎喫茶室」を通して、地域との良い関係を持ち続けています。

何より地域に受け入れてもらうこと

千葉さん夫妻が移住を考えるようになったきっかけは、携わっていた仕事でした。東京の編集制作会社で生活協同組合のカタログを作る仕事をしていたお二人は、地に足をつけて野菜作りをする農家の方や環境問題・共同体への思いを持った方々に取材を繰り返すうちに感化され、地方移住を考えるように。どこで何をして生きていこうかと模索し始めたそうです。

そんな矢先、那智勝浦町色川地区で地域おこし協力隊を募集していると知った智史さん。これまでの経験を活かすことができ、地域の人達と向き合って仕事ができる協力隊は自分にうってつけの制度だと考え応募。同地区が誇る棚田の保全や「色川茶」の収獲、加工、手入れ、年に一度の文化祭などイベントのサポート、出身者へ地域のいまを伝える冊子「色川だより」や地域新聞の作成など、できる限りあらゆる地域活動に参加させてもらったと言います。「いかに地域に溶け込めるかが大事だと思います。時間があれば地元の方の家を回るなど、密度の濃いやりとりを心掛けていました」と話します。

智史さんの活動期間中、貴子さんも何度も色川を訪れました。行事に参加したり地域の人達に会ったりする中で色川に魅力を感じ、自分もここで暮らしたい、という気持ちが強くなり移住を決めたそうです。「地域を知ってから移住できたので、今まで特にギャップを感じたことはありません」。智史さんと同じくフリーランスのライターとして、東京から仕事を受けつつ、暮らしを形作っています。

みんなのたまり場を目指して

協力隊の任期が終わる半年ほど前、智史さんは地域唯一の商店「よろず屋」の共同経営について相談を受けました。人が集まってゆっくり過ごす場を作りたいと思っていた千葉さん。話がトントンと進み、商店裏手にある集荷場の一部を改装して、よろず屋に併設する形で小さな喫茶室を開くことに。2018年11月、みんなのたまり場を目指した「らくだ舎喫茶室」がオープンしました。

「一人ひとりの顔を見ながら丁寧に飲み物を淹れる、手触りのある関係性を大切にしたい」。らくだ舎は地域の人だけでなく外の人が来るきっかけにもなっているそう。「ここを目指して来てくれる方がいます。ゆくゆく、この場所で生まれたつながりを地域に還していきたい。これからの色川を考えると、他地域と場所を超えてつながる必要があると思っています。その接点が生まれる場所であれたら」と智史さんは話します。

(「よろず屋」に隣接する形でオープンした「らくだ舎喫茶室」)

(色川地域で採れた根菜のピザトーストとほうじ茶ラテ)

フードメニューの開発は貴子さんの担当。色川の野菜や卵を使って、「シンプルでおいしい」「喫茶店にあるとうれしい」一品を作っています。ほうじ茶ラテなどに使う茶葉は色川地域の産品。よろず屋でも扱っており、らくだ舎がアンテナショップの役割も担っていきたいと考えているそうです。ネットショップもオープンし、これまで培ってきた文章や写真の技術を活かして商品の背景や作り手の思いを伝え、色川の商品を愛着を持って買い続けてくれる人を増やしていきたいと言います。

貴子さんは「お客さんと、継続的で幸せな関係性を作ることで、ここに住みたいという人も出てくるかもしれない。転機は自分のタイミングで訪れるものなので、その時に候補地として挙がるような関係性をつくっておきたいと思っています」と話してくれました。

【編集後記】
「生業(なりわい)」という言葉があります。生きていくための仕事という意味合いで、自営業の職について使うことが多いです。近年は一つという人が多いですが、昔は複数あっても珍しくありませんでした。千葉さん夫妻は編集・ライター業、らくだ舎の経営の他、地域活動も熱心に取り組んでいます。いくつかの仕事を組み合わせて生きていくことの可能性を考える取材になりました。

らくだ舎喫茶室
・所在地:〒649-5451 和歌山県東牟婁郡那智勝浦町口色川742-2 色川よろず屋内
・電話番号:050-5436-3222
・メールアドレス:rakudasha.c@gmail.com
・Facebook:@rakudasha.irokawa