
―イベントの仕事を通じて白浜町に関わっていた琴塚恭子さんと、アドベンチャーワールドへの就職を機に移住し、のちに農家に転身した遠藤賢嗣さん。琴塚さんが携わるワークショップで出会った二人は、今、それぞれの仕事を通じて地域の人たちと交流を深めている。仕事のこと、子育てのこと、そしてこれからも続けたい白浜での暮らしについて伺った。―
畑での竹あかりづくりが、二人の出会いに
京都市出身の琴塚さんは、大学で映像を専攻。卒業後はアートプロジェクトやこども番組の制作に携わった。2017年にはイベントコンサルティングを手掛けるTSP太陽株式会社に就職。2018年から、白浜町にあるテーマパーク「アドベンチャーワールド」を中心としたイベント企画に関わるようになった。
一方、同じく京都府宇治市出身の遠藤さんは、山梨の大学で動物について学び、22歳でアドベンチャーワールドに就職。約9年間勤務した後、白浜町で農業を始めていた。
二人が出会ったのは、アドベンチャーワールドなどが取り組んでいた「パンダバンブープロジェクト」の一環でのことだった。白良浜などに竹あかりを設置するほか、地域の人たちと竹に穴を開けて竹あかりをつくるワークショップも行われた。
多くの人に竹あかりづくりに参加してもらおうと、ワークショップを開ける場所を探していた琴塚さん。その時、すでに農家に転身していた遠藤さんが、「畑やったら貸していいよ」と場所を提供してくれたのだ。畑にブルーシートを敷いて、一緒に竹あかりをつくることになった。
「話してみたら、同じ京都出身で、アドベンチャーワールドでも働いていたと、その時に初めて知ったんです。共通点が多くて、仲良くなりました」と琴塚さん。
当時は東京から仕事で通っていた琴塚さんだが、その後、遠藤さんと結婚。現在は会社に籍を置きながら、白浜町との二地域居住を送っている。

イルカの仕事から、身近な自然を伝える農業へ
遠藤さんがイルカの飼育・調教の仕事を志したのは、高校生の頃だった。もともと生き物や自然が大好きで、動物を飼ったり、キャンプをしたりして過ごしていた。将来のことを考えた時、ふと思い出したのが、かつて訪れた水族館のイルカショーだった。
「イルカショーで、お客さんがすごく喜んでいるところを見て、いい仕事だなと思ったんです」
アドベンチャーワールド入社後は遊園地の担当を経て、アシカ、そしてイルカやクジラの担当に。念願のショーにも出演するようになったが、体調を崩したことを機に、これからの働き方を考え始めた。
「もうちょっと身近な自然と向き合って、生き物や自然の魅力を、いろんな人に伝える仕事をしたいなと思いました」
新たな仕事を考えるうえで、白浜町での暮らしも大きな要素だった。
白浜町といえば、温泉や海水浴などで知られる関西有数のリゾート地だが、実は少し離れれば、豊かな自然や田畑風景が広がっている。そんな自然に囲まれた環境に加え、地元の人たちとのつながりもあり、遠藤さんは白浜町での暮らしやすさを感じていたという。だからこそ、この町で人とのつながりを感じながらできる仕事として農業を選んだ。
それまで農業の経験はなかったが、上司の紹介をきっかけに農家で働けることになった。2018年に退社し、1年間アルバイトをしながら農業を学び、その後、独立。
当初は、栽培や販売について試行錯誤しながら経験を重ねていったというが、今ではレタスやトウモロコシ、ソラマメのほか、ケイトウやストックといった花も育てている。
順調そうに見えるが、「今でもうまくいかないこともあります」と笑う遠藤さん。さまざまな工夫を重ねながら、日々農業に向き合っている。
農作物の栽培と並行して始めたのが、農業体験農園「みんなの畑」だ。
体験農園では参加者がグループごとに区画を受け持ち、月2回の遠藤さんの講習を受けながら、1年を通じて野菜を育てる。収穫は参加者各自で行う。夏野菜は成長が早いため、収穫期には3〜4日に1回ほど畑に来てもらうそうだ。
参加者の多くは農業が初めてで、地元の人のほか、白浜町に移住してきた人やワーケーションで白浜を訪れた人も加わるそうだ。野菜づくりを通して、農業や自然の楽しさを感じてもらいたいというのが遠藤さんの思いだ。

地域の人とつくる、朝6時半のラジオ体操
琴塚さんは白浜町で出会った知人からの紹介をきっかけに、2025年6月、白浜町の地域活性化起業人として活動を始めた。
地域活性化起業人とは、企業の社員を地方自治体に一定期間派遣し、企業で培ったノウハウや知見を生かして地域の課題解決や活性化に取り組む国の制度。琴塚さんが勤めるTSP太陽株式会社と白浜町もこの制度を活用した協定を結んでおり、琴塚さんは会社に籍を置きながら、町の広報PRや新たな企画に取り組んでいる。
その一つが、地域の人たちと焚き火を囲んで語り合う音声番組「Re Shirahama RADIO(リシラハマラジオ)」だ。白浜町の面白さや、この町で感じていることなど、「白浜のあれこれ」をみんなで話すトーク番組で、現在、SpotifyやYouTubeで配信している。
また、地域に向けた取り組みでは、JR白浜駅前で月1回のラジオ体操も始めた。
駅前を活性化するために何かできないか。地域の人とアイデアを出し合う中で、かつて地域の人々や親子が一緒になって体を動かしていたラジオ体操に思い当たった。
「その人たちの記憶の中に、そこに絶対ハマるものがあるはずなんです」
毎月第1土曜日、朝6時半。初回には120人も集まったという。ただ体操をして解散するのはもったいないと、体操後に地元のトウモロコシを販売するなど月替わりの催しを企画し、参加者がまた来たいと思うような工夫も重ねている。
琴塚さんが大切にしているのは、運営する人たちが無理なく続けられることだ。役割を分担し、みんなで取り組める規模にする。これまでのイベントづくりに携わった経験が、白浜町での活動にも活かされている。

保育園帰りに海や温泉へ。こどもと味わう白浜の暮らし
活動の軸足が都会にあった頃、琴塚さんの生活は仕事が中心だった。仕事とプライベートの境目も、ほとんどなかったという。
それが白浜に来てすっかり変わったと琴塚さん。
「仕事が終わってパソコンを閉じて、『今から海に行こう』とか、『ご飯をどうしよう』って考える。これがプライベートなんだって思いました(笑)」
今は子どもを保育園へ迎えに行った帰りに、そのまま浜辺に寄ることもある。1時間ほど遊んで温泉に入って帰る。
「『仕事終わったら家族であそこの温泉集合ね』みたいな・・・・・・。結構、贅沢な暮らし方ですね」
土日には、親子で遠藤さんの畑を訪れる。休みがあまり取れない遠藤さんにとっても、家族で過ごす時間になっている。
琴塚さんが面白いと感じるのは、こどもが身の回りにあるもので遊びをつくり出すことだ。葉っぱでものをつくったり、水路をまたいで、自分が「橋」になってみたり。
「私も美術をやってきたんですけど、ある材料で何とかするのが、ものをつくることなんです。ここには材料が山のようにあるので、どうなるのかがすごく楽しみです」
家ではあまり食べたがらないレタスも、畑にあるものは食べる。トウモロコシも自分でむき、生のままかじるという。琴塚さんは、そんなこどもの姿を見て、自然が身近にある暮らしの良さを実感している。

近くを流れる富田川
「今が続くこと」が、これからの目標
今後、この地域で挑戦したいことを尋ねると、遠藤さんからは「今を続けること」という意外な答えが返ってきた。
「今に満足しているんです。今を続けるって、めちゃくちゃ難しいことだと思っていて。この環境をずっと維持していくのが、これからの目標かなと」
時代が変われば地域を取り巻く環境も変わる。そんな中で、今ここにある日常を守り続けることも遠藤さんにとって大きな挑戦だ。
琴塚さんも、これまで仕事に力を注いできたからこそ、今の暮らしの良さを伝えたいと考えている。
「ぼんやり海を見ている時間が贅沢だってことを、どれだけ人に伝えられるか」
白浜を訪れた人に、自分が感じているこの町の良さを伝えていくこと。いつでも誰でも来ていい場所。そんな空気感を、自分たちでつくり、伝えていきたいと話す。

移住を検討されている方へ
最後に、和歌山への移住や二地域居住を考えている方へのメッセージを伺った。
「まずは来てください。人とつながらないと、分からないことがたくさんあります」と遠藤さん。
遠藤さん自身、農業を始めた頃には、地域の人と知り合いたいと地元のお祭りに参加した。獅子舞の横でおかめの役を務めたこともあり、そこから一気につながりが広がったという。
琴塚さんも、仕事で通っていた頃と、人と知り合ってからでは、白浜の印象が変わったと話す。
「もともと、白浜は仕事で来た場所なんです。それが、主人と出会って、友達ができて輪が広がっていった。つながりが生まれた最初のきっかけは、友達や気軽にしゃべれる人をつくることだったんですよ」
とはいえ、初めての土地で誰に話し掛ければいいのか、迷う人もいるだろう。そんな時は、まず畑に来てもらえればと二人は話す。
「『白浜に興味があるんです』と言ってもらえれば、いくらでもおつなぎします。しごと暮らし体験もやってますので、お気軽に来てください」と琴塚さん。
畑での出会いから夫婦となり、地域の人たちとの関わりを深めてきた二人。今度はその畑で、白浜に関心を持つ人たちを迎えている。
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https://www.wakayamagurashi.jp/work/experience/shirahamanoukaendo