
―海と山に囲まれた和歌山県日高町で、海の見えるカフェと一棟貸しの宿泊施設を営む湯川克巳さん。東京でIT業界の最前線を走り続けた後、60歳を前に奥様の由美子さんと地元へUターン。現在は、地域の食文化や自然、歴史を伝える場を創り、地元と外の人をつなぐ役割を担っている。そんな湯川さんに、移住して、カフェを始めた経緯、地域での活動についてお話を伺った―
ふるさと日高町へUターンを決めた理由
日高町は、和歌山県の中部に位置する。紀伊水道に面しており漁業も盛んで、幻の高級魚と言われる「クエ」が名産品。町内にある「産湯(うぶゆ)海水浴場」は、海水浴シーズンは家族連れで賑わい、オフシーズンの冬季にはサーフィン愛好家が集う。
今回の取材場所の「Coast Cafe 楽(がく)」は、湯川さんが、実家の農機具を保管していた倉庫を大規模に改装し、2017年4月末にオープンした。全面ガラス張りの窓からは由良(ゆら)湾を一望でき、大型タンカーや海上自衛隊の潜水艦が入港する様子を店内から楽しむことができるなど解放的な空間が広がる。
克巳さんは、高校卒業後、大学進学を機に関東へ。その後由美子さんと結婚され、神奈川県や埼玉県などで暮らす。IT関連企業でネットワーク、セキュリティ分野の営業として長年仕事に打ち込んできたが、60歳を超えて東京で働き続ける厳しさも感じていたとのこと。そんな中、実家では高齢の母が一人暮らしをしており、妹も実家から離れた地域に住んでいたため、「自分が実家に戻らなければ」という思いも強まり、2016年、会社の早期退職制度を利用し、こどものころから親しんだ地元・日高町へ戻る決断をする。
コミュニティカフェの学びから事業化へ
移住にあたり、再就職などを検討する中、高齢化や人口減少が進む地域の課題解決には、高齢者同士の交流の場が必要だと感じ、和歌山市が主催する「コミュニティカフェ」セミナーに参加。講座を通じて、高齢者に限らず幅広い年齢層の方々の交流が生まれるカフェの起業を決意する。
飲食店の経営など未経験だったが、飲食店の経営に詳しい友人、知人にいろいろと教えてもらいながら、カフェ開業に向けて取り掛かる。起業にあたっては、「和歌山県よろず支援拠点」の支援を受けながら、創業計画を策定し、公的金融機関などから資金調達も行い、厨房や浄化槽の設置、内装工事を行った。
カフェ、宿泊、体験プログラムで地域をPR
カフェ営業に加え、2018年からは一棟貸しの宿泊事業をスタート。国内外から訪れるゲストに、心休まるお宿として快適な滞在を提供している。
日高町を含むこの日高地方は、和食に欠かせないかつお節や金山寺味噌など発祥の地であることから、「和食の源流は日高にあり」をキャッチコピーに地域をPRしている。湯川さんは、宿泊客に対し手巻き寿司やお好み焼きづくりを体験していただきながら、地元食材の歴史を紹介している。「お客様の食事の時に“和食の源流は日高にあり”という言葉について説明すると、目を輝かせて聞いてくれます。また、日高地域の豊かな自然や歴史をお伝えすると、とても喜んでいただけます」と話す。
コロナ禍を経て、柔軟な営業スタイルに
コロナ禍では県外客の受け入れ制限や休業を経験するなど、事業は一筋縄ではいかなかった。コロナ後は、宿泊施設の提供だけでなく、学生向けの民泊体験にも取り組んだ。 最近は、熊野古道などを訪れる外国人のお客様も多く、多様なニーズにしっかりと対応できるよう、カフェを土・日・月曜を中心に営業し、宿泊の予約が入った際は臨時休業にするなど柔軟に対応している。
また、これまでカフェやゲストハウスを支えてくれたお客様への感謝として、昨年7周年キャンペーンを実施。さらに、湯川さんご自身の体験を通して、お客様に健康や予防の大切さを伝える取り組みも開始した。食事、運動、睡眠、心のバランスといった健康習慣の情報提供を行い、地域のお客様の健康づくりにも力を注いでいる。
今後の展望:ワーケーション拠点、そして
「今後は宿泊施設をワーケーションやテレワークに対応できるようにする計画です。東京で体感したテレワークの利便性を、地方での暮らしと仕事の両立に生かしたいと考えています」と語る克巳さん。ご自身が携わってきたITの分野での経験を、地域に還元したいと考えている。
また、「お試し移住」や二地域居住を希望する人が地域とつながる場として、宿泊と体験を組み合わせた、新たなプランを考案中。「日高町は自然や食文化に恵まれた場所。訪れた人が『また来たい』と思えるようなおもてなしを、これからも続けていきたい」
最後に、移住を考えている方に向けてお話を聞いた。「ボランティアに取り組んだり、地域の方々との交流は必要だと思います。大切なのは、自分自身がそうだったが、何でも良いので、何かをやり続けること、チャレンジし続けること」「移住も含めて、人生にゴールはなく、学び続ける旅だと思います。だからこそ、“しっかり休む”ことも大事にしてください」と克巳さん。
- 取材終了直前、令和7年9月に開催される「日高うまいもんフェスタ デジタルスタンプラリー」のポスターを見せていただいた。地域のたくさんの飲食店が参加しており、湯川さんもエントリー。地域に来てくれるたくさんの人たちとの出会い、そして、その人たちに日高地域の魅力を知ってもらうことに、湯川さんご夫婦の期待が膨らむ。-
https://coast-cafe-gaku.p-kit.com/
https://www.instagram.com/coast_cafe_gaku/
https://wakayama-hidaka-history.jp/
開催期間:令和7(2025)年9月1日(月)~令和8(2026)年1月31日(土)
詳しくは、下記URLより。
https://wakayama-hidaka-history.jp/introduce/umaimonfesta/